LC/MSでブランク試料を測定した時に現れる夾雑ピークについて
前回投稿した“LC/MSにおける試料調製や前処理で重要なポイント”の続きです。この記事の後半で描いている“ブランク試料のTICクロマトグラムで観測されたピークは、必ずしもブランク試料由来ではない可能性がある”について、今回は他の可能性を書いてみます。
経験上、以下のような可能性があると思います。
1.試料導入系の汚染
オートインジェクターやマニュアルインジェクターなどの試料導入系が、以前測定した試料等によって汚染されている場合、それが試料注入の度に混入し、あたかも試料に含まれていたかの様な挙動を示します。
2. 試料導入系以外のLC装置内部の汚染
試料導入系の汚染が、最も夾雑ピークの保持時間の再現性が高くなりますが、それ以外の場所が汚染されていても、測定の度に少しずつ溶解して夾雑ピークとして現れる可能性があります。クロマトグラム上のピークとして現れる場合には、カラムよりも前である可能性が高いです。
3. カラムの汚染
測定試料に含まれる疎水性の高い成分が、分析の際に溶出しきれずにカラムに残ってしまう場合、その後の分析で少しずつ溶出してクロマトグラム上にピークとして観測されることがあります。
4.LCの水系溶離液の汚染
LC/MSに用いられるLCの8割以上は、逆相分配クロマトグラフィーです。そして、その多くはグラジエント溶離が用いられます。2の可能性は、逆相でグラジエント溶離を行う場合に特に起こり易いです。この条件では、グラジエントの初期状態は水系溶媒がリッチで、カラムの平衡化を行って試料を注入します。水系溶離液が汚染されていると、平衡化の間に溶離液中の比較的疎水性の高い成分がカラム先端にトラップされ、グラジエント溶離によってそれが溶出されてきます。そして、その成分があたかも試料中に含まれていたかの様に振舞います。
夾雑ピークの原因が、“ブランク試料に含まれている”か、“試料導入系の汚染”か、“LCの水系溶離液の汚染”か、を見極めるには以下のような方法があります。
a. ブランク試料の注入量を変えて見る
注入量を変えて夾雑ピークの強度が変わればブランク試料由来、変わらなければ“試料導入系の汚染”か“LCの水系溶離液の汚染”が原因です。
b. 試料を注入せずグラジエントプログラムだけ走らせて見る
これはLCシステムによっては出来ない場合がありますが、もし可能であれば、これをやってみて夾雑ピークが出現すれば“LCの水系溶離液の汚染”が原因である可能性が高いです。
c. 平衡化の時間を変えて見る
bの実験をする際、水系溶離液による平衡化時間を変えて見ます。それに伴って夾雑ピークの強度が変化するようなら、“LCの水系溶離液の汚染”が原因である事は先ず間違いないでしょう。
この様なトラブルは、LC/MSでは何処でも起こりえます。しかし意識をしていないと、この様な問題が起こっている事自体に気づけません。
実際、私が技術指導等でご訪問したお客様のところでは、多くがこの問題が起こっていながら気づいていませんでした。
原因が分かった後の対処法については、また別の機会に書いてみようと思います。
LC/MSにおける分析法の棚卸、一度やってみませんか? 一つ上のステージでの分析が可能になりますよ。
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