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ESIとAPCIの脱溶媒プロセスの違い

LC/MSで用いられるイオン化法の代表例を二つ挙げるとすると、殆どの人がESIとAPCIを挙げるでしょう。

殆どのMS装置メーカーからLC-MS装置が販売される時、ESIが標準でAPCIがオプションと言うケースが多いため、両者の使用頻度を比較すると、ESIの方がよく使われているという事になります。両イオン源は構造がとても良く似ています。そして、イオンが生成する過程においても、類似のプロセスがあります。その一つが加熱による脱溶媒プロセスです。今日は、その事について考えてみましょう。ESIとAPCIのイオン源の概略を図1と2に示します。また、ESIでイオンが生成する様子を模式的に示したものを図3に示します。

図1 ESIのイオン源の概略図(上:空圧ネブライザータイプ、下:ナノ、ミクロタイプ)

 

図2 APCIのイオン源の概略図

 

図3 ESIにおけるイオン生成の模式図

 

 

先ずESIでは、キャピラリー先端部分で分析種は既にイオン化しています。つまり液相でのイオン化です。例えば正イオン検出条件で[M+H]+が生成した場合、対向電極であるオリフィスやコーンに相対的にマイナスの電圧が印加されている状態であるため、その電圧の引力によって液体の塊から帯電液滴となって大気中に飛び出します。帯電液滴には、分析種のイオンや夾雑成分のイオン、溶媒のイオン、そしてそれらのイオン化していない状態の中性分子、それらが含まれて一塊になっており、そのサイズはµmオーダーで、質量分析計内部に侵入するには大き過ぎます。帯電液滴は加熱される事で揮発性の溶媒が蒸発し、そのサイズは小さくなっていきます。そうすると液滴内のイオン同士の電荷反発によって液滴は分裂、あるいは液滴の外表面近くにあるイオンが飛び出します。ESIにおける脱溶媒プロセスは、帯電液滴の電荷反発やイオン蒸発を誘発させるために行われます。つまり、帯電液滴はそれ程加熱しなくても、イオンは生成すると言う事です。

 

一方APCIでは、試料溶液は空圧ネブライザーによって中性状態の液滴になります。APCIでのイオン化は放電電極の近傍で起こり、気相でのイオン化であるため、分析種分子やイオン化に関与する溶媒分子は、加熱によって気相単分子の状態になっている必要があります。そのため、液滴は十分に加熱して乾燥させる必要があり、ESIよりも高い熱エネルギーが必要です。

 

ESIとAPCIは似たような構造のイオン源を用いるイオン化法であり、両者とも加熱による脱溶媒プロセスが必要ですが、その意味は同じではなく、必要とされる熱エネルギーや分子(イオン)に加わる熱エネルギーは大きく異なります。APCIが熱に不安定な化合物に不向きなイオン化法であると言われる所以は、そこにあると考えて良いと思います。

 

 

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