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今では余り使われていないMS/MS法:リンクドスキャンとMIKES

私は学生の時からずっと質量分析の研究をしています。

今回は、大学から大学院での研究で使っていた、今は使われていないMS/MSの技術について書いてみます。

 

当時は、現在汎用されているQ-TOFやQ-OrbitrapのようなMS/MS装置はまだ世の中にありませんでした。磁場でイオンを曲げてm/z を分ける(加えて電場でエネルギーを揃える)二重収束質量分析計が主流でした。二重収束質量分析計には、磁場が前で電場が後ろにある逆配置、電場が前で磁場が後ろの正配置の2種類があります。

配置が違うからどうだって言うと…

 

両方共MS/MSが可能なのですが、逆配置ではある特定のm/z 値のイオンだけが通過するように磁場を固定し、そのイオンが磁場を通過して電場に入る前に開裂して生成した断片化イオンを電場で分離します。電場に入る前に開裂・断片化したイオンは、元のイオンより運動エネルギーが小さくなっているので、電場強度を下げることで通過できます。そして、通過した時の電場強度からそのイオンのm/z 値が分かります。

正配置の二重収束質量分析計では、イオン源を出た直後に開裂して断片化したイオンのマススペクトルを測定します。電場と磁場を連動(リンク)させて、その強度を走査(スキャン)することで、運動エネルギーの小さくなった断片化イオンを電場・磁場両方で収束させることができます。

これら2つの測定法、前者をMIKES (mass analyzed ion kinetic energy spectrometry)、後者をリンクドスキャンと言います。大学と大学院ではこのリンクドスキャンを駆使して、有機ケイ素化合物の分解機構を解析し、同じ化合物の光分解反応と比較する研究を行っていました。同じ化合物でも、片や気相分子から電子が1つ脱離したイオンに不活性ガスを衝突・励起させた時の分解、片や溶液状態の分子に光(紫外線)を照射・励起させた時の分解、分解機構は当然異なりますが共通性もありました。

リンクドスキャンもMIKESも一種のMS/MSであり、特定のm/z 値のイオンから生じるプロダクトイオンを観測できるのですが、違いは、MIKESがプロダクトイオンを電場のみのスキャンで分離するのに対して、リンクドスキャンは電場と磁場の両方で分離することです。

リンクドスキャンは、プロダクトイオンを二重収束で分離するため高分解能マススペクトルが得られると言うメリットがあります。高分解能と言っても、m/z 数百の領域で同位体の質量差(1 Da)が分離できる程度でしたが。

一方MIKESは、電場のみのスキャンなので、プロダクトイオンスペクトルの分解能は低く、ピークはブロードニングします。MIKESの利点は、ピーク幅から運動エネルギー放出(kinetic energy release, KER)値を計算できることです。イオンは一定の運動エネルギーをもって飛行し、飛行中に開裂する時運動エネルギーの一部を放出し、それがピーク幅となって現れます。

では、KER値が分かると何が良いか?

KER値から、そのフラグメンテーションが単純開裂か転位反応を伴う開裂かを区別できるのです。

今の仕事を始めてから、天然物の高分解能LC/MS/MS分析を行うことが多く、低エネルギーCIDによって得られたプロダクトイオンスペクトルを解析します。学生の時はフラグメンテーション解析が研究テーマでしたが、前職ではLC/MS/MSはできる環境にありませんでした(装置を開発していなかった)。

そして今の仕事をする中で、LC/MS/MSのデータ解析において、あるフラグメントイオンが単純開裂によって生成したのか転位反応を伴う開裂によって生成したのかが判別できれば、未知化合物のマススペクトルを解析する上でかなり楽になるのは間違いないですね❗

今の汎用装置では、単純開裂と転位反応を伴う開裂を区別できる測定法は不可能です。一方、当時のMIKESを今のLC/MS/MSにそのまま応用できるかと言うと、それもまた不可能です。温故知新、昔の技術と今の技術の融合、何かうまいこと出来ないかなぁ~...

 

 

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